PPPに地域再生託す、江府町の若者定住団地整備

江府町佐川地区の旧パチンコ店跡地

自治体財政の厳しさ反映(山陰中央新報)

県内19市町村で最小人口2800人、高齢化率約50%の江府町が、官民連携(PPP)の事業手法を活用し、懸案の若者定住用団地整備に向けて動き出した。事業費のコスト縮減に加え、民間事業者の新たな投資を呼び込み、ビジネス機会の創出を促す試み。人口減少社会真っただ中の小さな町はなぜ、PPPによるにまちづくりの一端を託すのか。その背景を探った。

「(反応は)まあまあ。連携してくれそうな業者にアプローチしたい」築後60年以上が経過した木造庁舎で、白石祐治町長は米子市内で11月上旬にあったPPPセミナーに出席し、事業概要を説明した際の手応えを話した。本年度の一般会計当初予算が43億円の町は今秋、国道181号沿いにある同町佐川の旧パチンコ店跡地(約5200平方メートル)を3千万円で購入。PPPの事業手法で単身者向け集合住宅や子育て世帯向け戸建て、店舗などを整備・運営する計画を打ち出した。セミナーには県西部の設計、建築、金融などの関係者約70人が参加。終了後に寄せたアンケートのうち、江府町の案件に関心を示したのは10事業者に上った。

移住者ニーズ多様化

自治体と民間事業者が双方のノウハウを持ち寄り、計画段階から協働して公共施設や公有地の利活用を進めるPPPが、全国各地で加速する。背景には、人口減少や超高齢化で自治体財政が厳しさを増し、公共施設の更新や管理運営が重荷になっている現状がある。特に職員の少ない小規模自治体は、民間のノウハウを借りなければ地域課題解決もおぼつかない現状に直面する。米子市内まで車で30分圏内にある江府町は若者流出に頭を痛める。一方で田園回帰志向や新型コロナウィルスの感染拡大を背景に都市住民の移住定住相談は右肩上がり。2020年4~9月は過去最高の213件になったが、受け入れるだけの住宅物件がない。町営住宅22棟(31室)を有する町の担当者は「家を建てる土地も少なく、結果的に周辺自治体に流れている」と分析する。空き家バンク運営やコミュニティービジネス支援などを行う地元NPO法人「こうふのたより」の上野真事務局長(63)は「移住定住希望者のニーズは古民家やアパート、戸建てと多様化し、変化に応じた整備が必要」と話す。

地元商工業にも恩恵

PPPは消費人口減少が著しい地元商工業者にインパクトを与える。12月初めにPPPセミナーを聞いた江府町商工会(87会員)の梅田努事務長(53)は「新規事業を興すにもヒト、モノ、カネがない。官民連携で地域経済に貢献できるのは魅力的」と新たなビジネスチャンスに期待を寄せる。地方創生関連の交付金などを財源に21年度事業着手、23年度一部供用開始にこぎ着け、社会増への反転を目指すと白石町長は言う。「やる気のある事業者とともに、ゼロから1を生み出すまちづくりの試金石にしたい。」

江府町、江府町商工会共催のPPPセミナーで講演する関幸子氏(江府町)

地域経済を強くする

関幸子・東洋大学客員教授

人口5万人以下の小規模自治体(全国で約7割)は人口減少と過疎化に直面し、税収減でより小さな自治体へと向かっている。一方で空き家増加や耕作放棄地の拡大、産業衰退、老朽化した社会インフラ対応など地域課題は増え、自治体の専売特許となっている従来のまちづくりは困難になってきた。人口減少時代のPPPが求めているのは行政改革ではない。民のノウハウを使って連携領域の市場を作り、地域経済を強くすることであり、地域銀行は積極的に投資してほしい。人口の少ない地域ほど5G(第5世代移動通信システム)などを活用した新たな市場、仕事は作りやすい。PPPの手法で若者定住を促す魅力的な地域形成が急がれる。

●山陰中央新報

http://www.zofrex.co.jp/report/kofuppp.pdf

鳥取県主催のPPPセミナーで講演する関幸子氏(米子市)

典型的なPPP事業方式の優位性

委託期間 長期間(15~20年程度が多い)
委託範囲 個別業務ごとでなく包括的
建設費 民間側が立て替え(DBOは自治体が資金負担)
発注方式 公共側の仕様発注でなく性能発注、(要求水準を自社責任で解釈)
対価支払い 委託期間中に平準化して支払う
リスク 契約書に定めた行政側との分担に基づく
業務 民間事業者の創意工夫の余地が大きい

地方創生拠点整備交付金を活用したスマートシティAiCT (福島県会津若松市)はPPPの手法で建設された地方創生事業の代表的な成功事例。外資系企業等の誘致に成功した。(関幸子氏がPPPを担当:公設民営)

移住者住宅(岡山県新庄村)は民間企業が移住者住宅を建設し新庄村と民間企業が20年の賃貸契約を締結。賃貸料の7割は過疎債対象。家賃で残りの3割を補填するため新庄村の出費がない。(関幸子氏がPPPを担当:民設民営)

利根沼田学校組合立利根商業高等学校寄宿舎は建設費をリース化。リースは特別交付税対象。(民設公営)

鳥取県主催のPPPセミナーで若者定住用団地整備事業の概要を説明する白石祐治町長