大山・蒜山は畜産の黄金地帯なのだ

蒜山酪農農業協同組合生産課課長の中村さん(48歳)

蒜山酪農農業協同組合を訪問

鳥取和牛は、今年度の子牛市場の平均取引価格が全国1位となりましたが、取引頭数は2344頭と少なく全国46位です。一方、隣接する岡山県真庭市のジャージー牛の飼育頭数は2000頭と市町村別飼育頭数が全国第1位。ホルスタイン種の980頭を加えると鳥取県を超えます。肉質日本一の鳥取県大山地方、乳脂肪分が5%にも達する濃厚な牛乳を生む岡山県蒜山地方は連なっており、県境を越えたまさに畜産の黄金地帯と言えます。今日は県境を越え、蒜山酪農農業協同組合生産課課長の中村貢易(みつやす)さんに話を聞いてきました。

蒜山酪農農業協同組合の歴史

蒜山高原は、第2次世界大戦前は陸軍の演習場でした。しかし、戦後に国の緊急開拓事業により開拓され、昭和21年(1946年)に開拓者の入植を開始した地域です。昭和22年には、蒜山開拓団を結成し、175名の入植を始めました。昭和23年(1948年)には蒜山原開拓農協が設立されました。私のおじいさんは鳥取県倉吉市で生まれ、満州に渡り、戦後は蒜山に入植しました。私で3代目の酪農家です。蒜山は大山の噴火による火山灰に覆われた地域であり、農作業は困難を極めたと聞いています。蒜山酪農農業協同組合は昭和31年に設立され、現在の組合員は37農場、41人によって構成されています。

ジャージー牛の導入

国は昭和27年に第2次畜産振興計画を策定し、乳牛増殖計画を打ち出しました。昭和29年には美作地域高度酪農計画が策定され、同地域にジャージー牛が導入されました。平地が少ない日本で、未利用地の活用を酪農で補おうとしたのです。そこで選ばれたのが粗飼料(丘陵で繁茂する牧草)の利用率が高いジャージー牛だったのです。美作地方でジャージー牛が導入された後に昭和29年に蒜山地方でも導入されました。ホルスタイン種に比べ、産乳量が2/3程度と少ないために、全国ではあまり飼養されていません。それだけ付加価値を追求することが必要な酪農となったのです。現在ジャージー牛の飼養頭数は全国でおよそ1万頭です。その中で、蒜山地方は2000頭を飼養しており、全国一のジャージー牛乳産地となりました。ジャージー牛が生む牛乳は「黄金のミルク」とも呼ばれています。まさに肉質日本一の鳥取県とともに畜産の付加価値を生むことができる黄金地帯と言えますね。

「黄金のミルク」を生むジャージー牛。脂肪分、タンパク質を大事にしていると中村さん

粗飼料の生産がいのち

蒜山地方の酪農家は高齢化し、減少傾向にあります。牛の頭数を維持するために1戸当たりの飼養頭数が増加傾向にあり、大規模化が進んでいます。牧草地の規模が飼養できる頭数を規定しているため、頭数維持の上限は近づいています。標高450メートルから550メートルにかけての耕作地で牧草を収穫しています。1番草は5月に収穫します。白いビニールに牧草を束ねます。ラップサイレージと言います。1番草は700キロ。1反で1袋できます。2番草は7月ごろ。1袋400キロで1反で0.5袋程度できます。3番草は9月。1袋550キロで0.5反で1袋できます。粗飼料の自給が蒜山酪農農業協同組合のいのちと言えます。循環型農業、スマート農業を目指しています。

大きめのラップサイレージ

自然と観光の共存を

酪農の6次化を進めてきました。牛乳だけではなく、チーズ、ヨーグルト、バター、肉などを販売しています。広報に力を入れています。コロナ禍でネット販売が2倍の伸びを記録しました。これからも牧場の自然景観と観光との共存を図り、地域振興に取り組んでいきたいです。

牧場内にある観光客が歩ける遊歩道